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「生きたくなかったら死ね」という論点のすり替え

 「生まれてこなければよかった」という人に対して、「生きたくなかったら死ね」と主張する人がいるが、それは論点のすり替えでしかない。生まれてこない状態(無)を肯定していて、生まれてくること(無から有になること)を否定しているからと言って、死ぬこと(有から無になること)を肯定しているわけではない。意志がない状態で強制的に誕生させられたにも関わらず、意志がある状態で苦痛を味わって「死ね」というのは不当な要求である。生まれてしまっている時点でもはや「どうにもならない問題」なのであって、解決策は一切ないのである。
 また、「生きている」時点で「誕生させる」ことの事後承諾が成立している(これは「生きたくなかったら死ね」の言い換えであろう)と主張する人がいるが、それもまた間違いである。「誕生させられてしまった」がゆえに仕方なく「生きている」のであれば、自ら選んで「死ぬ」ことがなければ事後承諾の拒否にならないというわけではない。承諾するのは生まれた側なのであって、「生まれてこなければよかった」という考えを持った段階ですでに事後承諾は拒否されているのである。